女川町誌 続編
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なった。 こうしたある日、甲板やマストに羽を休めていたベニヒワの群れがタカやハヤブサの一団に襲われるという事件があった。猛鳥の襲来に逃げまどう小鳥たちを目前にして「くらさん」はどうもしてやれない自分の無力が歯がゆかったという。しばらくして嵐が去るようにタカ・ハヤブサの飛び去った甲板には、逃げまどううちにマストに激突したり、猛鳥の爪に引っかかれたりして命を失った小鳥の遺骸が点々と残されていた。しかし、その中に、傷つきながらもまだ生きているものが交じっている のに「くらさん」は気がついた。「たとえ死ぬにしても、介抱も受けず、看取る者もなく死ぬなど、小鳥とはいえいかにも哀れだ」、そんな思いが「くらさん」の胸を突いたという。傷ついた小鳥を手当たり次第拾い集めると、「くらさん」は船医のところへこれを持ち込んだ。驚きながらも船医は「くらさん」に手伝ってできる限りの手当てを尽くしてくれた。もちろんほとんどの小鳥は助からなかったのであるが「くらさん」の疲労した体の奥からは深い満足感が湧わいてくるのであった。 鳥獣保護保養所を開いてからの阿部の活動は数々の心温まるエピソートに彩られる。『あべくらさんの動物病院』には、万石浦に浮かぶ黒島に治療の済んだ動物のためのリハビリ園建設という同氏の夢とその断念の経緯が述べられている。同じシリーズでやはり竹野の著書で、雄勝町桑浜の小さな分校の子供たちと傷ついたトビの間に生まれた心の 416

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