女川町誌
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のみならず商港としての将来性が大いに期待される様になつた。鉄道は石巻から北上川を渡り、稲井石で名高い稲井を通り、渡波に達する。塩田を右に望み乍ら進むと目前に万石浦の景観が展開する。更に列車は万石浦沿いに北東に進み、女川に着く、この間約三十分で、仙台からは二時間半の行程である。女川町は湾の周辺にある諸部落を合併したもので人口約一万七千、戸数三千足らずの水産業を主とした町である。町内には製氷・冷凍・漁網・船具・漁油・水産物加工等の工場・商店・貯油タンク・水産市場等があり、大部分は新しい建物で新興地らしさを漂わして居る。女川湾の湾口は東南に面し、湾の周囲は悉く丘陵地になつている。湾口附近には出島・江島・平島・足島・二股島等の島が散在し、風光明媚の天地である。殊に足島は海猫蕃殖地として天然紀念物に指定されて居り、産卵期にはこの群が島を蔽い、一種特有の声をあげて、賑やかに飛び交うている有様は実に壮観である。海猫は湾内到る処に見られ、その可憐な姿は湾内の景色を一層引立てゝ居る。更に霊島の称ある金華山は江島の真南に当り、女川から楽に短時間で渡ることが出来る。女川町は遠洋漁業としては鰹及び鮪漁業が盛であり、沿岸漁業としては鮫刺網・機船底曳網・鰮揚操網・鰮建網・玉筋魚抄網・鱒及鱈延繩・磯魚延繩・鰈鮃天秤釣・鮹釣・鮑・海鼠・若布・海苔・海藻等で季節々々にその水揚は町を賑わして居る。従つて之に附随した水産製造業も盛である。実験所は駅から約一粁半南、小さな岬で町から隔離された小乗浜にある。湾内は波穏かであるが、一度湾口を出ると太平洋が展開し、間近に三陸の大漁場が望まれる。然も一方丘陵を一つ隔てゝ内湾浅海の万石浦が海水を堪えて漫々として居る。斯くの如く目前に海洋、水産上幾多の研究対象を備えて居る女川の地は研究機関所在地として誠に好適の地である。箕作・林両博士は、夙にこの地を着眼されたその慧眼には敬意を表せざるを得ない。704

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